最高裁判所第三小法廷 昭和45年(オ)331号 判決 1970年10月13日
上告人
与志本林業株式会社
代理人
藤井与吉
被上告人
川村浩
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人藤井与吉の上告理由一および二について。
原判決は、上告人と被上告人および訴外会社間の本件杉丸太の売買は、被上告人と訴外会社が各半船分約二五〇〇石の分割契約であつたとの事実を認めるに足りる証拠はなく、右売買は被上告人と訴外会社を共同買主とする売買契約であると認定し、そして右売買契約の目的物については性質上または特約による不可分は認められず、したがつて、民法四二七条により買主両名の債務は可分債務となると判断したものである。そうとすれば、原判決の判断に理由不備、理由そごの違法のないことは明らかである。
同三について。
上告人は本件売買に基づく杉丸太につき、訴外会社に対する分と上告人に対する分とを訴外会社の専務取締役三原正夫に対し引き渡したものであるが、三原正夫が右引渡につき被上告人から代理権を授与されていたことおよび引渡を被上告人が追認したことを認めるに足りる証拠がない旨の原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯でき、右認定の過程において採証法則違背も認められない。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用できない。
同四および五について。
上告人の代理人山腰俊雄は、本件売買契約の処理につき被上告人と交渉を重ねたが、その話合の末昭和四〇年一二月一四日暗黙のうちに右契約を合意解除したものとみるべきである旨の原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯できる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用できない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(松本正雄 下村三郎 飯村義美 関根小郷)
上告代理人の上告理由
原判決には法律の解釈を誤つたか、また、または審理不尽、理由不備の違法があり、破毀を免れないものである。
一、原判決は、上告人の請求を全部棄却すべきものとし、その理由として、先づ本件木材の引渡について「被控訴人は、本件木林を昭和四〇年一一月二二、三日頃小松島において控訴人及び訴外会社の両者に対して引渡した旨主張するけれども、本件の全証拠を通じて、被控訴人に対して右の引渡を為したことについての資料は見当らず、むしろ弁論の全趣旨によれば、被控訴人は、右の頃訴外会社の専務取締役であつた三原正夫に対し、訴外会社に対する分と控訴人に対する分を引渡したものと認められる。
ところで(中略)、被控訴人は、本件木材の引渡債務は不可分債務であるから、買主の一人たる訴外会社(代理人三原正夫)に対して全部引渡を有効に為し得る旨主張するけれども、右債務の給付目的物は不可分の物件でないから、性質上の不可分債務(正確には不可分債権)であるとは云えず、また本件債務の給付目的物を控訴人及び訴外会社には分割して引渡をしない旨の特約があつたことは、本件の全証拠を通じても窺われないから、当事者の意思表示による不可分性も認められず中)、従つて本件債務の不可分性を前提とする被控訴人の主張も亦理由がない」(原判決五枚目表二行目乃至六枚目表二行目)、とした。
二、しかし乍ら、原判決は他方に於て「成立に争いのない甲第一号証と原審証人山腰俊雄(第一、二、三回)、三原正夫(第一、三回)の証言、控訴人本人尋問(第一回)の結果によれば、被控訴人主張の日に、本件売買契約は書面に依つて成立し右書面(甲第一号証の売買約定書)記載の契約内容は被控訴人主張の通りであるから、本件契約は、控訴人及び訴外三原製材株式会社を共同買主として、右両名に合計約五、〇〇〇石の杉丸太を売渡す旨の契約(その内容は被控訴人主張通り)として成立したものと認めるのほかはない。本件契約が右認定に反して控訴人主張のような趣旨(半船分約二、五〇〇石の分別契約)であつたとの点は、前掲控訴人本人尋問の結果(第一回)により、契約当時の控訴人の内心の意思としてのみ肯定し得るに止まり、表示された契約内容としては前認定の事実以外に認める余地はなく、控訴人の全立証に依つても右認定を覆すに足りない」(原判決四枚目表三行目乃至同裏四行目)とし、当事者の意思表示により不可分なものと認定されているものであるから、その理由に不備乃至齟齬がある。<以下略>